藤内哲也編著『はじめて学ぶイタリアの歴史と文化』ミネルヴァ書房
濱野敦史
本書は、おもに近代以前の時代に注目しながら、イタリアの歴史や文化を紹介することをねらって編集された入門書である。序章で指摘されるように、現在のイタリアの領域はながらく政治的に分断されていた一方で、そこには古くからさまざまな面での一体性が育まれてきた。それゆえ、イタリアの歴史や文化を理解するためには、多様性と普遍性の両方に目を向けながら、各種のテーマに取り組む必要がある。
本書は2部に分かれており、全12章から構成されている。第1章から第4章までの第I部では、古代末期から現代までの歴史を概観している。第II部に含まれる残りの8章では、章ごとに個別のテーマに注目している。そこでは、地中海世界とのつながり、教皇およびカトリック教会、都市社会、ユダヤ人問題といった歴史学的なアプローチに加えて、美術史、文学史、服飾史、建築史といった切り口からイタリアの特色があきらかにされる。また、各章のあとには「歴史の扉」という気軽に読める短文が、各章で扱われなかった論点を補足あるいは紹介している。各執筆者の解説は概説に近いものから個別の問題に踏み込んだものまであって、それぞれに個性的であるが、全体としてのまとまりはきちんと保たれている。
歴史学の視点から関心を引かれた点を一つだけ述べておきたい。本書では、イタリアをその外部や他者との関係から読み解こうとする試みがいくつか見られる。とくに、第5章「イタリアと地中海」では港町を通してイタリアが世界とつながっていた事実を再認識できる。また、第12章「『ゲットーの時代』のユダヤ人」からはヴェネツィアを例にキリスト教徒と内なる他者であるユダヤ人との共生がどのように成り立っていたのかが浮かび上がってくる。このような他者や異文化と向き合ってきた歴史もイタリアの無視できない一面である。こうしたテーマからもせまっていくことで、より多面的にイタリアを理解できることは疑いない。
初学者の立場からすれば、本書は興味を持てる章や部分から手をつけるのがよいだろう。たとえば、歴史の問題にあまり興味を持てない場合には、第II部の途中から読みはじめることも可能である。とはいえ、全体を読み通せば、初学者に限らず、イタリアについての知見を広められるにちがいない。本書にはイタリアの歴史および文化の案内書としての期待に十二分に応えられる内容が収められている。最後に、巻末には「読書案内」が備えられており、本書で扱われなかったテーマにも興味のある読者へ配慮がされていることを付け加えておきたい。
[2016年5月発行 3,200円+税]