地中海学会月報

MONTHLY BULLETIN

学会からのお知らせ

第43回地中海学会大会

6月8日(土)、9日(日)の2日間、神戸大学百年記念館にて第43回地中海学会大会を開催した。本大会は、神戸大学人文学研究科との共催にて開催された。

6月8日(土)
開会挨拶 13:05〜13:15 奥村弘氏
記念講演 13:15〜14:15
「神戸で想う、ピランデッロのカオス・シチリア」武谷なおみ氏
地中海トーキング 14:30〜17:15
「港町:交流と創造」
パネリスト:樋口大祐/宮下遼/河上眞里/佐藤昇/司会:宮下規久朗 各氏
授賞式 17:20〜17:45
「地中海学会賞・地中海学会ヘレンド賞」
地中海学会総会 17:50〜18:20
懇親会 18:30〜20:30[瀧川記念学術交流会館1階]
6月9日(日)
研究発表 10:10〜12:20
「青銅器時代終末期におけるキプロス島のエーゲ海地域との交流」土居通正氏/「地中海を俯瞰するイメージ:ハイドラ(チュニジア)の舗床モザイク《地中海の都市と島々》に描かれた神話地誌」瀧本みわ氏/「1970-80 年代コルシカ島における民族音楽『コルシカン・ポリフォニー』の成立と発展──コルシカ民族主義運動との関係」長谷川秀樹氏
(昼食・神戸大学山口誓子記念館ツアー 12:30 ~14:00)
シンポジウム 14:00〜17:00
「文化遺産と今を生きる」
パネリスト:奥村弘/深見奈緒子/松田陽/山形治江/司会:末永航 各氏

第43回地中海学会総会

第43回地中海学会総会(篠塚千恵子議長)は神戸大学百年記念館にて下記の通り開催された。2018年度事業報告、2018年度決算、2019年度事業計画、2019年度予算が承認され、2018年度の会計/会務執行は大髙保二郎・野口昌夫両監査委員によって適正妥当と認められた。2020年度からの正会員の会費の改定(1万3千円から1万円への値下げ)も承認され、地中海学会の役員の改選が行われた。

議事
一、開会宣言 二、議長選出
三、2018 年度事業報告 四、2018 年度会計決算
五、2018 年度監査報告 六、正会員の会費の改定
七、2019 年度事業計画 八、2019 年度会計予算
九、役員改選 十、閉会宣言

2018年度事業報告
Ⅰ 印刷物発行
1.『地中海学研究』XLII 2019.5.31発行
(論文)「アントニオ・ダ・モンツァの写本装飾──ロンバルディアおよびローマ教皇庁周辺での活動に関する問題」永井裕子/「ロッソ・フィオレンティーノとタピスリー──《ラウラの死をめぐるペトラルカの幻影》について小林亜起子/「古代小麦の再評価におけるシチリア州小麦栽培試験研究所」牧みぎわ/(研究動向)「イタリア・ヴェネトにおける小都市および風景研究」福村任生/(書評)「篠塚千恵子著『死者を記念する──古代ギリシアの墓辺図研究』福本薫/「髙田京比子著『中世ヴェネツィアの家族と権力』」高見純/「越宏一編『ヨーロッパ中世美術論集5 中世美術の諸相』」水野千依
2.『地中海学会月報』 411〜420号発行(6・7月/9月~5月)年間10回
3.『地中海学研究』バック・ナンバーの頒布
Ⅱ 研究会、講演会
1.研究会
「南イタリア・プーリア州における都市と地域の空間史」稲益祐太(首都大学東京秋葉原サテライトキャ_ンパス7.14)/「アントニオ・ダ・モンツァの写本装飾──ロンバルディアおよびローマ教皇庁周辺での活動に関する問題──」永井裕子(学習院大学北2 号館2 階史学科閲覧室10.13)/「中世ドミニコ会統治における総会と総長──修道士による学位取得の問題を通じて──」梶原洋一(学習院大学北2 号館10 階大会議室12.8)/「キケロによる例外的軍隊指揮権付与の正当化」丸亀裕司(学習院大学北2 号館10 階大会議室2.23)/「自著を語る──『凱旋門と活人画の風俗史──儚きスペクタクルの力』について」京谷啓徳(学習院大学北2 号館10 階大会議室4.13)
Ⅲ 賞の授与
1.地中海学会賞
受賞者:大高保二郎氏
2.地中海学会ヘレンド賞
受賞者:樋渡 彩氏
副賞:受賞記念磁器皿「地中海の庭」(星商事株式会社提供)
Ⅳ 文献、書籍、その他の収集
1. 『地中海学研究』との交換書:『西洋古典学研究』『古代文化』『古代オリエント博物館紀要』『岡山市立オリエント美術館紀要』Journal of AncientCivilizations
2. その他寄贈図書:月報・学会HPで周知
Ⅴ 協賛事業等
1. NHK文化センター講座[Jシニアーズアカデミー]企画協力「人間の歴史 月曜日コース」
2. ワールド航空サービス知求アカデミー講座企画協力「地中海学会セミナー」
Ⅵ 会 議
1. 常任委員会 5回開催
2. 学会誌編集委員会 3回開催、他Eメール上にて
3. 月報編集委員会 1回開催、他Eメール上にて
4. 大会準備委員会・実行委員会(合同)1回開催、他Eメール上にて
5. ウェブ委員会 Eメール上にて
6. 賞選考小委員会 1回開催
Ⅶ ホームページ
URL=http://www.collegium-mediterr.org
「ご案内」「事業内容」「『地中海学研究』」「地中海学会月報」「地中海学会の出版物」「図書紹介」「写真で綴る地中海世界の旅」
Ⅷ 大 会(第42回大会)
新宮市福祉センター1階ホール(和歌山県新宮市野田1−1)6月9・10日
国際熊野学会と共催
Ⅸ その他
1. 新入会員:正会員9名;学生会員1名(2019.3.31現在)

2019年度事業計画
Ⅰ 印刷物発行
1. 学会誌『地中海学研究』XLIII(2020年5月発行予定)
2. 『地中海学会月報』発行 年間約10回
3. 『地中海学会会員名簿』の発行
4. 『地中海学研究』バック・ナンバーの頒布
Ⅱ 研究会、講演会
1. 研究会の開催 年間5〜6回程度
Ⅲ 賞の授与
1. 地中海学会賞
2. 地中海学会ヘレンド賞
Ⅳ 文献、書籍、その他の収集
Ⅴ 協賛事業、その他
1. NHK文化センター講座[Jシニアーズアカデミー]企画協力
2. ワールド航空サービス知求アカデミー講座企画協力「地中海学会セミナー」
Ⅵ 会 議
1. 常任委員会 2.学会誌編集委員会
3. 月報編集委員会 4.大会準備委員会
5. ウェブ委員会 6.その他
Ⅶ 大 会
第43回大会(於神戸大学百年記念館六甲ホール)6月8・9日
Ⅷ その他
1. 賛助会員の勧誘 2. 新入会員の勧誘
3. 法人化に向けての検討 4. 展覧会の招待券の配布
5. その他

正会員の会費改定

地中海学会の活動の継続およびさらなる発展のため、第43回地中海学会総会において正会員の会費を下記のように改定することが決定しました。
(現在)
正会員の入会金は5,000円とする。正会員は、一ヶ年につき13,000円の会費を納入しなければならない
•家族会費割引
他の会員と同居する会員(家族、配偶者、その他)が機関誌、刊行物、名簿等の配布を希望しない場合には、常任委員会の承認を得た上で、正会員会費13,000円から5,000円、学生会員会費6,000円から2,000円の割引を受けることができる。ただし割引を受ける者は通常の配布を受ける他の会員を一名指定し、その会員が割引会費も一括して納入することとする。
(改定後)
正会員の入会金は5,000円とする。正会員は、一ヶ年につき10,000円の会費を納入しなければならない。
•家族会費割引
他の会員と同居する会員(家族、配偶者、その他)が機関誌、刊行物、名簿等の配布を希望しない場合には、常任委員会の承認を得た上で、正会員会費10,000円から5,000円、学生会員会費6,000円から2,000円の割引を受けることができる。ただし割引を受ける者は通常の配布を受ける他の会員を一名指定し、その会員が割引会費も一括して納入することとする。

なお、この会費改定は、2020年度(2020年4月1日)より適用されます。

論文募集

『地中海学研究』XLIII(2020)の論文・研究動向および書評を下記の通り募集します。
論文·研究動向 32,000字以内
書評 8,000字以内
締切 2019 年10 月末日(必着)
投稿を希望する方は、テーマを添えて9 月末日までに事前に学会誌編集委員会(j.mediterr@gmail.com)へご連絡下さい。「執筆要項」をお送りします。
なお本誌は査読制度をとっています。

地中海学会大会 研究発表要旨
青銅器時代終末期におけるキプロス島のエーゲ海地域との交流
──キプロス島在地の動物文付き土器創成の背景を探る──
土居 通正

キプロス島とギリシア本土との交流は紀元前14世紀に入って漸く活発化するが、前13世紀半ばには衰退すると云われる。前12世紀初頭とされるミケーネ宮殿の崩壊を控えた当時の交流の実態をキプロス島で作られ始めた動物文付き土器について見ることで探ってみたい。銅鉱の産地として知られるキプロス島だが、後期青銅器時代の沈没船の発掘で、その銅がインゴットの形でエーゲ海地域へ積み出されていたことが実際に明らかになった。トルコ南部のウルブルン沖の海底から総重量10トンに達する銅の鋳塊348個が1トンの錫の鋳塊と共に引き揚げられ、積み荷には他に象牙やガラス塊など、宮殿の工房で使われる筈の貴重な原材料もあり、また150個程の運搬貯蔵用の所謂カナーンの壷、9個のキプロス製のピトスには155個のキプロス島製の土器が入れられていた。前14世紀末のこの沈没船に1世紀遅れるアルゴリス半島イリア沖の沈没船にも同類のキプロス製ピトスが積まれていた。また前述の沈没船同様、運搬貯蔵用の鐙壷を積んでいたが、計8個全てがクレタ島中南部産の胎土で作られていることが判明している。

この沈没船はエーゲ海地域と東地中海地域間の交易が前13世紀末に至っても続けられていて、クレタ島がそれに関わっていたことを物語るが、このことはキプロス島のピラ・コッキノクレモスの発掘からも明らかである。この遺跡はキプロス島東南部の海岸沿いに点在する遺跡の一つで、丘陵の頂きにあり、前13世紀末葉から前12世紀初頭にかけて短期間居住された集落遺跡であるが、クレタ島製アンフォラ形クラテールが多数出土している。蛸文などが描かれていて、ギリシア本土には類例がない非常に大形なものも有り、ギリシア本土製品との違いは当時の人びとにも認識されていたと思われる。同遺跡からはクレタ島製の運搬貯蔵用の鐙壷も出土しており、当時クレタ島がエーゲ海地域と東地中海地域間の文化交流に一定の役割を演じていたことが推察される。

その頃キプロス島では動物文付きクラテールの製作が始まっていた。前13世紀後半から前12世紀初頭に年代付けられるエンコミ18号墓側室からは在地の山羊文付き鉢形クラテールとギリシア本土製と考えられる鉢形クラテールが出土している。後者にも山羊文付きのものがあるが、両者には装飾に大きな違いがある。例えば構図的に全く異なり、後者では副次的文様は全く使われていないが前者では空間を植物文が埋めている。云われているようにギリシア本土からの動物文付きクラテールの搬入が途絶えたことが在地の動物文付きクラテール創成の契機となったとしても、前者の装飾はギリシア本土から搬入された土器に倣ったものとは言い難い。エンコミ19号墓出土の在地の鉢形クラテールについても同じことが云える。この土器は山羊文と牛文を並置する構図を見せるが、このような構図、或は同一土器の表側と裏側に山羊文と牛文を描き分けたりする例は、筆者の知る限り、最初期とされるこの土器を含め、キプロス在地のクラテール以外には見られない。従ってこのようなデザインも搬入されたミケーネ土器に負うとは考え難い。在地の動物文付き土器を作り始めたキプロスの陶画工のオリジナリティーを考慮しなければならないが、ここでこれらの点で比較出来る図像表現がクレタ島にあることを注意したい。先ず(1)山羊文と牛文の等価対比的使用だが、クレタ島東部エピスコピ・イエラペトラ出土の陶棺、そしてクレタ島西部アルメニ10号墓出土の陶棺長辺側には左右2分割された器面の片方に山羊文、もう片方に牛文が描かれている。そして(2)山羊文周囲の植物充填文の使用だが、先ず前述のアルメニ出土の陶棺の動物達が口先をその頂部に付けている植物文が挙げられる。またクレタ島中部アルハネス出土の象牙製飾り板では山羊の腹下に尖った葉が密集する植物文が見える。これはその位置と細部の両方の点で先述のエンコミ18号墓出土の在地のクラテールの植物文に良く比較出来る。キプロス在地の動物文付きクラテールには例は少ないがアンフォラ形のものも有る。当時ギリシア本土ではこの形のクラテールはすでに廃れていたとされ、そして先述したピラ・コッキノクレモスの出土例を考慮すれば、これらの土器のアンフォラ形という器種自体にもクレタ島の影響を考えて良いのかも知れない。またこれらにはすべて山羊文が描かれているが、野生の山羊はザクロ宮殿出土の石製リュトンが示すようにクレタ島の伝統的モチーフである。当時海外交易を活発化させていたクレタ島の文化的影響力がキプロス島在地の動物文付きクラテールの創成に少なからず作用したと見ることができるだろう。

地中海学会大会 研究発表要旨
地中海を俯瞰するイメージ: ハイドラの舗床モザイク《地中海の都市と島々》に描かれた神話地誌
瀧本 みわ

チュニジア中西部の古代ローマ都市アンマエダラAmmaedara(現ハイドラ)の市外別荘(ウィッラ・スブルバナ)で発見された舗床モザイク《地中海の都市と島々》は、古代地中海世界の神域や伝説の地を小島に見立て、多島海として描いた古代絵地図の稀少な一例であり、また北アフリカのローマ属州美術の独自性を示す貴重な遺例である。

3世紀末から4世紀初頭に制作された本作例は、東地中海からシチリア島にかけて存在する15の都市や島(うち12の地名が判明: Cnidos, Cnossos, Cypros, Cytherae, Egusa, Erycos, Idalium, Lemnos, Naxos, Paphos, Rhodos, Scyros)が、青緑色の大海に浮かぶ島嶼として表され、輪郭化された海岸線による地形図的手法や図式的な見取り図の形式から、一種の名所図の趣を持つ。そして各地域を特徴づけるための建築表現や葡萄棚などの風景モチーフが配されたそれぞれの浮島には、ラテン語銘によって明確な地名が与えられ、なんらかの現実的な意向を示すものの、その配置には実際の地理的状況は反映されていない。むしろ、アモルたちが波間に戯れる風物的な海の情景は、銘記される地名の大半が、アフロディテ/ウェヌス信仰所縁の地であることからも、4世紀前後の北アフリカで人気を博した「海のウェヌス讃美」の図像と結びつけられ、特異な神話的風景として解釈される。この図像は、シチリアのエリュクスからリビュアへ向かうウェヌスの航海を題材にした「船渡御(アナゴギア)」などが源泉と考えられるが、しかし、女神を中心とした祝祭的な海浜風景ではなく、ウェヌス不在のこの絵地図には、より深い創作意図があるように思われる。

地中海の島々を俯瞰するイメージは、文学における神話地誌に見出すことができる。例えば、複数の島を列挙しながら登場人物の島から島への移動を描写する手法は、ホメロス讃歌を筆頭に、聖域から聖域へ飛び回るウェヌスの天空の旅程においても示される。よって、本作例の観者は、東から西へ複数の聖域を持つ女神の視点から、地中海の島々への移動を視覚的に追体験するのである。また、神話文学においては、オリュンポスの神々が山上から下界を見下ろし、人間界の出来事を傍観する様子が描かれるが、その際用いられるのが「枠物語(フレーム・ナラティヴ)」、すなわち、天空から一望する地域で起きている物語が挿入される、入れ子構造の叙述形式である。本作例には、島の内部に説話場面が描かれないため、この構造の視覚化を指摘することができないものの、ラテン語で記された都市や島の名前から、その地域に付随する神話を想起し、読み解くことは可能であろう。

このことは、「カタログ型」と称される、北アフリカの舗床モザイク特有の判じ絵の手法からも考察できよう。見世物の動物や競走馬に、そのラテン名が名札のように付された一覧図に端を発するこの諸作例は、第一に記録としての機能を持つが、描かれた神話図像から競走馬の名前を言い当てるといった、鑑賞者の文学的素養や言語感覚に訴える、知的な連想ゲームとして発展した。よって、本作例にも、図像とラテン語銘の相互作用による新たなイメージの喚起を目指す、文学的な神話地誌の視覚化が試みられたのだと考えられる。

以上の点を踏まえながら、本作例のラテン語銘によって示された地域を再見するならば、隣接するいくつかの島々をグループ化し、英雄たちの航海冒険譚として捉えることができる。すなわち、「クレタ・サイクル」と称される、クノッソスの迷宮におけるテセウスのミノタウロス退治に始まり、ナクソス島のアリアドネとディオニュソスの結婚に至る物語(Cnossos, Naxos, Lemnos, Scyros)、この物語の名脇役である工匠ダイダロスの彷徨(Cnossos, Erycos)、そして、スキュロス島のリュコメデスの王宮に匿われたアキレウスの物語(Scyros)である。そして、これらの物語は、文学のみならず、古代末期のローマ絵画においても広く受容された主題である。よって、本作例の鑑賞者は、都市や島の地名から、こうした特定の神話場面を想起したと考えられるが、そこには文学的知識の援用のみならず、造形芸術の知見も大きく関与していたことを指摘できる。

ハイドラのモザイクの翻案者は、北アフリカのローマ人が文学や絵画において慣れ親しんだ古来の聖域や神話の舞台を、地中海に浮かぶ島々の表現に託し、それらを俯瞰する視点によって、神々が地上の出来事を眺めるかのように、観者を神話場面へ立ち会わせることを意図したのではないだろうか。そしてまた、舗床モザイク特有の鑑賞形態である身体の移動と、島々を行き来する船旅を結びつけ、絵地図の上を歩き回ることによって、観者を神話上の地中海世界へと誘ったのであった。

昨年アルル古代博物館での修復を経た本作例は、7月17日より、マルセイユ欧州文明博物館にて《島の時代》展のプロローグを飾る予定である。