地中海学会月報 MONTHLY BULLETIN

学会からのお知らせ

第44回大会のオンライン開催について

月報430号の「学会からのお知らせ」でお伝えしたように、地中海学会は2020年6月13・14日に開催予定の第44回大会を同年11月21・22日に延期することを決定し、新たな日程での大会を関東学院大学金沢八景キャンパスにて開催すべく準備を進めてきましたが、11月下旬に新型コロナウイルス等の感染・流行状況がどうなっているか、いまだにまったく見通しがつかないことから、大会直前になって突如施設を使用できなくなる危険とそれにともなう損失を考慮せざるを得ず、また現地開催が可能な場合でも、大会運営のための学生アルバイトを動員できないこと、懇親会の開催が極めて困難なことに鑑み、大会をオンラインで開催することに決定いたしました。会員の皆さまには、インターネット環境を整えていただくなど、ご迷惑をおかけしますが、ご理解いただければ幸いです。
なお、オンラインで開催する第44回大会のプログラムは以下のとおりですが、大会への参加をご予定の方は、10月下旬に学会ホームページとメーリングリストでお知らせする「第44回大会参加希望受付サイト」にて、11月11日(水)までにお申し込みください。大会当日に使用するZoomミーティングのIDとパスワードを個別にお知らせするとともに、Zoomに不慣れな方々には、大会前に予行演習を行うなどして、オンライン開催にともなう問題の解消に努めます。
また、初日の懇親会については、大会をオンライン開催に変更した多くの学会が中止としているようですが、第44回大会実行委員会としては目下、オンライン開催の可能性と方法を模索しているところです。詳細はまた、学会ホームページでお知らせしますのでご注意ください。
なにとぞよろしくお願い申し上げます。

11月21日(土)
13:00 開会宣言
13:15~14:15 記念講演
「ピカソと地中海──神話的世界から《ゲルニカ》へ」
大髙保二郎(早稲田大学名誉教授)
14:30~16:30 地中海トーキング
「異文化との出会いとその後」
パネリスト:
菅野裕子(横浜国立大学)
斎藤多喜夫(横浜外国人居留地研究会)
飯田巳貴(専修大学)
石井元章(大阪芸術大学)
司会:飯塚正人(東京外国語大学)
16:40~17:10 授賞式:
地中海学会ヘレンド賞
17:30~19:00 懇親会?

11月22日(日)
10:00~12:00 研究報告
「ローマ共和政期における『慣例』」
丸亀裕司
「ヴィットーレ・カルパッチョ作「スラヴ人会」連作にみられる東方の表象」
森田優子
「グランド・オペラの音楽と舞台演出:マイヤーベーア《悪魔ロベール》を例に」
森 佳子
14:00~17:00 シンポジウム
「地中海都市の重層性」
パネリスト:
黒田泰介(関東学院大学:建築再生計画)
高山 博(東京大学:中世シチリア王国)
山下王世(立教大学:トルコ・イスラーム文化論、宗教建築史)
加藤磨珠枝(立教大学:中世キリスト教美術)
司会:黒田泰介(パネリスト兼任)
17:00 閉会宣言

第44回地中海学会総会

月報432号でお知らせしたとおり、第44回地中海学会総会は7月3日消印有効の書面審査にて開催され、正会員176名の投票を得て、定款第28条に基づき成立。集計の結果、すべての議案が賛成多数で原案どおり承認されました。

議事
一、2019年度事業報告
二、2019年度収支決算
三、2019年度監査報告
四、会員種別の変更と割引の新設
五、2020年度事業計画
六、2020年度収支予算

2019年度事業報告
Ⅰ 印刷物発行
1.『地中海学研究』XLIII 2020.5.31発行
(論文)「古代ローマの皇帝親衛騎馬部隊騎士の墓碑──その身分と浮彫馬事図像──」中西麻澄/(研究ノート)「ギリシアの初期鉄器時代における車輪付き土製品とその社会的背景」高橋裕子/(書評)「フランシスコ・パチェーコ著『絵画芸術(三書概要・抄訳・図像編全訳)、論考』」木村三郎/(報告)「地中海学会第43回大会シンポジウム『文化遺産と今を生きる』要旨」奥村弘・深見奈緒子・松田陽・山形治江
2.『地中海学会月報』 421~430号発行(6・7月/9月~5月)年間10回
3.『地中海学研究』バック・ナンバーの頒布
Ⅱ 研究会、講演会
1.研究会
2019年10月開催予定の研究会は台風接近のため、2020年4月開催予定の研究会は新型コロナウイルス感染拡大のため、それぞれ延期された。
「セルリオの建築書『第四書』にみるペルッツィの遺産」飛ヶ谷潤一郎(学習院大学北2号館10階大会議室 12.14)/「幻視主題における遠近法とその意味──一六世紀初頭の作例を中心に」森田優子(学習院大学北2号館10階大会議室 2.22)
2.連続講演会(休会中)
Ⅲ 賞の授与
1.地中海学会賞 受賞者:該当なし
2.地中海学会ヘレンド賞
受賞者:伊藤拓真氏
副賞:受賞記念磁器皿「地中海の庭」(星商事株式会社提供)
Ⅳ 文献、書籍、その他の収集
1.『地中海学研究』との交換書:『西洋古典学研究』『古代文化』『古代オリエント博物館紀要』『岡山市立オリエント美術館紀要』Journal of Ancient Civilizations
2.その他寄贈図書:月報・学会HPで周知
Ⅴ 協賛事業等
1.NHK文化センター講座[Jシニアーズアカデミー]企画協力
2.ワールド航空サービス知求アカデミー講座企画協力「地中海学会セミナー」
Ⅵ 会 議
1.常任委員会 4回開催(10月開催予定の常任委員会は台風接近のため中止)
2.学会誌編集委員会 3回開催、他Eメール上にて
3.月報編集委員会 1回開催、他Eメール上にて
4.大会準備委員会・実行委員会(合同)5回開催、他Eメール上にて
5.ウェブ委員会 Eメール上にて
6.賞選考小委員会 1回開催
Ⅶ ホームページ
URL=http://www.collegium-mediterr.org
「ご案内」「事業内容」「『地中海学研究』」「地中海学会月報」「地中海学会の出版物」「図書紹介」「写真で綴る地中海世界の旅」
Ⅷ 大 会
第43回大会(於神戸大学百年記念館六甲ホール)6月8・9日
Ⅸ その他
1.新入会員:正会員3名、学生会員2名(2020.3.31現在)

2020年度事業計画
Ⅰ 印刷物発行
1. 学会誌『地中海学研究』XLIV(2021年5月発行予定)
2. 『地中海学会月報』発行 年間約10回
3. 『地中海学会会員名簿』の発行
4. 『地中海学研究』バック・ナンバーの頒布
Ⅱ 研究会、講演会
1. 研究会の開催 年間5~6回程度
2. アーティソン美術館の土曜講座 年間4回
Ⅲ 賞の授与
1.地中海学会賞
2.地中海学会ヘレンド賞
Ⅳ 文献、書籍、その他の収集
Ⅴ 協賛事業、その他
1.NHK文化センター講座[Jシニアーズアカデミー]企画協力
2.ワールド航空サービス知求アカデミー講座企画協力「地中海学会セミナー」
Ⅵ 会 議
1.常任委員会
2.学会誌編集委員会
3.月報編集委員会
4.大会準備委員会
5.ウェブ委員会
6.その他
Ⅶ 大 会
第44回大会(於関東学院大学5号館101ホール)11月21・22日
Ⅷ その他
1.賛助会員の勧誘
2.新入会員の勧誘
3.法人化に向けての検討
4.展覧会の招待券の配布
5.その他

会員種別の変更と割引の新設について

月報432号では、第44回地中海学会総会において決定された学生会員の入会金と会費の改定についてお知らせしましたが、総会ではさらに、これまでの「シニア会員」「準会員」という会員種別を廃止して正会員に統一する一方、新たに「個人会費割引A」「個人会費割引B」を新設し、これまでのシニア会員に個人会費割引A、準会員には個人会費割引Bを適用することも決定されました。
(現在)
本会の会員は、下記の六種とする。
1.正会員、2.シニア会員、3.準会員、4.学生会員、 5.賛助会員、6.名誉会員
(改定後)
本会の会員は、下記の四種とする。
1.正会員、2.学生会員、3.賛助会員、4.名誉会員

(改定後、定款補則に追加)
•個人会費割引A
満65歳以上の正会員が希望する場合、常任委員会の承認を得た上で、正会員会費10,000円から2,000円の割引を受けることができる。
•個人会費割引B
新規入会申込者を含め、博士課程等の修了者で、常勤職のない会員が希望する場合、常任委員会の承認を得た上で、正会員会費10,000円から2,000円の割引を受けることができる。

なお、この改定は2021年度(2021年4月1日)より適用されます。

会費納入のお願い

2020年度度会費の納入をお願い申し上げます。自動引き落としの手続きをされていない方は、以下のとおりお振込をお願いいたします。
なお、正会員の会費が改定されていますのでお間違いのないようにご注意ください。

会 費:正会員 10,000円
学生会員 6,000円
シニア会員 8,000円
準会員 8,000円

振込先:口座名「地中海学会」
郵便振替 00160-0-77515
みずほ銀行 九段支店 普通957742
三井住友銀行 麹町支店 普通216313

第44回地中海学会大会のご案内
黒田 泰介

第44回地中海学会大会は、世界的な流行をみせるコロナウイルスの感染を考慮して、インターネットを使ったオンライン形式で開催されることとなりました。年一度の貴重な交流の場を手放すこととなってしまい、大会運営の関係者一同、とても残念に思っております。港町横浜に在ります関東学院大学での大会開催および懇親会を楽しみにされていた会員諸氏には大変申し訳ありませんが、どうか皆様のご理解を賜りたく存じます。

今年度の大会は、2020(令和2)年11月21日(土)・22日(日)に、ビデオ会議ソフト「Zoom」を利用して開催されます。今大会への参加費は無料です。ホスト校として予定されていた関東学院大学建築・環境学部には引き続き、後援をいただきます。古都鎌倉との深い縁をもつ金沢八景の地にメインキャンパスを置く関東学院大学は、1884年に横浜山手に創立された横浜バプテスト神学校を源流とし、現在は11学部5研究科を擁する総合大学・大学院となりました。工学部建築学科を母体として、2013年に設置された建築・環境学部は、デザインとエンジニアリングという従来の工学的な枠組みに加えて、芸術や思想・歴史、環境共生といった、文系と理系の視点の融合をテーマとしています。安藤広重が描く名所絵、武州金沢八景で知られる風光明媚な当地は、大学近くに位置する旧伊藤博文金沢別邸に代表されるように、湘南の別荘文化の走りともなった場所でした。大学、土地柄共に、広く学際的な性格をもつ地中海学会大会をお迎えするにふさわしい舞台ではありますが、今年ばかりは状況が許さず、心苦しい限りです。

Zoomとは映像と音声を使って、多数の参加者が同時にコミュニケーションできるソフトウエアです。外出の自粛要請や大学への登校が制限された時期、多くの会議や授業がZoomを使って行われました。大会参加のためのZoom会議室へのリンクは、学会より参加希望者へ、メールにてお伝えする予定です。

11月21日(土)の大会初日には、大髙保二郎氏(早稲田大学名誉教授)による記念講演が行われます。演題は「ピカソと地中海──神話的世界から《ゲルニカ》へ」です。スペイン美術史研究者の大髙氏は、2019年に地中海学会賞を受賞されており、今回の講演では受賞の内容についても触れられることと思います。

続いて開催される地中海トーキングは、「異文化との出会いとその後」というテーマで行われます。国際港・横浜から伝わった西洋文化は、近代日本に広く根付いていきました。トーキングはこれを手がかりとして、異文化接触と受容によって生まれた地中海の諸文化を概観していきます。飯塚正人氏(東京外国語大学・イスラーム学)の司会により、パネリストとして菅野裕子氏(横浜国立大学・西洋建築史)、斎藤多喜夫氏(横浜外国人居留地研究会)、飯田巳貴氏(専修大学・東地中海史)、石井元章氏(大阪芸術大学・近代美術史)がご登壇されます。それぞれご専門の視点からの報告は、港町での異なる価値観、異なる風俗の交流が、どのような化学反応を引き起こし、その後、文化として定着していったのかを魅せてくれる、興味深い議論になることでしょう。

地中海学会ヘレンド賞の授賞式は、オンラインで行われます。地中海トーキングに引き続き、ご参加下さい。また懇親会も、今大会ではオンラインでの開催が検討されています。

11月22日(日)の大会2日目は、10:00より専門研究者による研究報告が行われます。幅広い分野からの発表には、多様な環地中海域の研究をテーマとする、本学会の特色が強く表れています。

同日14:00からは、シンポジウム「地中海都市の重層性」を開催します。地中海都市に見られる過去の遺産の継承や対立、またそれらが生み出す都市の多様性と活気の源について、多彩な視点から論じていきます。登壇者は、高山博氏(東京大学・西洋史)、山下王世氏(立教大学・イスラーム建築史)、加藤磨珠枝氏(立教大学・西洋美術史)、司会兼任の黒田泰介(関東学院大学・建築再生計画)の4名です。古代より多様・多彩な文明を育んできた地中海世界には、過去の遺産である遺跡や歴史的建築物を転用・再利用してつくられた、幾層にも重ねられた衣のごとく、歴史的な深みを湛える空間をもつ都市が数多く存在します。本シンポジウムでは、パレルモ、コンスタンチノープル、ローマなど、各地の事例を具体的に紹介しつつ、地中海都市がもつ魅力の一面について、多角的・総合的な視点から語られることとなるでしょう。

オンラインでの大会開催は、地中海学会にとっても初の試みとなりますが、対面での開催に劣らぬよう、関係者一同、鋭意努力する所存であります。当日は多くの方々にご参加いただけますよう、心より願っております。

表紙説明

地中海の《競技》14:ルネサンスにおける美術作品の優劣比較/伊藤 拓真

美術の世界における競技といえば、特定の形式のなかで作品の優劣を競うコンクールがまず思い浮かぶ。有名なところであれば、フィレンツェ洗礼堂門扉の制作者を決めるために1401年に行われたコンクールをあげることができるだろう。このコンクールに参加したギベルティとブルネッレスキという2人の若い芸術家の関係は、15世紀には既に複数の文筆家によってとりあげられているし、また現代でも頻繁に研究の対象となっている。芸術家という存在への関心が増したルネサンス期のイタリアでは、参加者たちの悲喜こもごもの逸話とともにコンクールが語られるようになったのである。

また時には制作者の意図に反して、作品がコンクールでもあるかのような優劣比較の対象とされることもあった。そのようなケースのひとつが、図版としてあげたフィレンツェのアヌンツィアータ聖堂の主祭壇画である。この祭壇画は裏表に絵画面を有する両面祭壇画で、もともとはフィリッピーノ・リッピに注文されたが、彼が1504年に没した際には、片面の《十字架降架》が途中まで仕上げられているに過ぎなかった。その未完成部分ともう片面の《聖母被昇天》の制作は、ペルジーノに任されることになる。

ヴァザーリの『美術家列伝』によれば、完成した祭壇画の評価はペルジーノの凋落の原因となったという。当初の予定ではペルジーノの《聖母被昇天》を手前側に設置する予定だったが、その出来がひどく劣っていたため祭壇画の表裏を入れ替えることになったという。また同時代の芸術家たちもペルジーノの作品を時代遅れのものとして非難したとのことである。消沈したペルジーノはフィレンツェを離れ、故郷のペルージャに引きこもったとされている。

ただしヴァザーリが伝える多くの逸話と同様に、この祭壇画を巡る経緯についてもその真偽は疑わしい。ペルジーノは祭壇画完成後、晩年の1511年までフィレンツェで工房を開いていたし、1515年にはアヌンツィアータ聖堂内に一家のための墓所を購入してもいる。少なくとも修道士たちとの関係は悪くなかったようだ。さらには20世紀末になって発見された契約書によれば、当初から《十字架降架》が表側に設置されることになっていたのである。

観衆は「競技」にドラマを求めるものだろう。そしてそのドラマは時として、実際の競技参加者の意志とは無関係に語り継がれていく。『美術家列伝』が出版された時点で既に両面祭壇画は解体されていたが、2枚のパネルはいまだにアヌンツィアータ聖堂に所蔵されていた。聖堂の来訪者は、『美術家列伝』の逸話を思い出しながらペルジーノとフィリッピーノの作品を眺めたに違いない。

(表紙写真)
左:フィリッピーノ・リッピとペルジーノ《十字架降架》、フィレンツェ、アカデミア美術館/右:ペルジーノ《聖母被昇天》、フィレンツェ、アヌンツィアータ聖堂(図版出典www.wga.hu